ラブカは静かに弓を持つ

めっきり本を読むことが減りましたが・・・

ラブカは静かに弓を持つ 安壇美緒(あだん みお)

少年時代、チェロ教室の帰りにある事件に遭遇し、以来、深海の悪夢に苛まれながら生きてきた橘。
ある日、上司の塩坪から呼び出され、音楽教室への潜入調査を命じられる。
目的は著作権法の演奏権を侵害している証拠をつかむこと。
橘は身分を偽り、チェロ講師・浅葉のもとに通い始める。
師と仲間との出会いが、奏でる歓びが、橘の凍っていた心を溶かしだすが、法廷に立つ時間が迫り……

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音楽教室でのレッスン教材としての楽譜使用は著作権侵害に当たるか。

2019年に表面化し社会面を賑わせた〇ASRACとヤ〇ハとの間での「事件」が物語のモデルといわれます。

少年期にチェロを学びながらとある事件によってチェロから離れ、以来無機質的に成長した主人公が職務のためにチェロと再会し次第に自分の中の「音楽」と人間性を取り戻していく姿を描いています。

 

主要な登場人物はさほど多くはないとはいえ、それぞれの個性(特に音楽教室関係の人々の)が丁寧に描写されて、久々に素直に読み進んでいけました。

主人公が勤める「全日本音楽著作権連盟」(架空の団体です)の上司はいささか悪役っぽく描かれますが、もちろん著作権を持つ側からすればそれにより生活が成り立ち、成り立つことによって音楽業界全体が発展できる、という論理も正しいわけで、実際の事件の行く末については判決を待つしかなく私らがとやかく言うことではないでしょう。

長い回り道を経て、自分の中の純粋な音楽を見つける主人公の成長物語といえると思います。