バーバー「T」

およそ3か月ぶりに散髪に行った。
3か月前と同じバーバーに。
 
元来不精なもので、「あ~、うっとおしいな~」と思い始めてもなかなか行かない。
最近は短時間・低料金の散髪屋さんがいくつか出来たので、そこで済ませていた。
席についてから20分ほどで終わるし、なにせ安い。
元々どう刈られても気にしないから、それで十分と思っていた。
 
 
しかし、この歳になってどうも間違っていたことにようやく気づいた。
 
 
その散髪屋「T」さんは安くはないし、カット&シャンプー&整髪で約1時間はかかる。
30歳代に見えるシュッとした2代目店主はカットしている最中は余計なことは話さないが、話してみると結構饒舌で、父親の代からのお客さんの話やらを聞かせてくれる。
ちょっとだけ移転はしたが、その界隈で長くバーバーを営んでいるらしい。
 
僕が入店したとき他に客はいなかったし、帰るまで誰も来なかった。
ニコンポからはフュージョン系ジャズが流れている。
丁寧な規則的なハサミの音が実に心地よい。
 
 
僕の父は毎週のように散髪に行っていた人だった。
晩年近くの父の頭はかなり薄かったから、散髪から戻ってもどこを刈ったのかちっともわからなかったが。
超仕事人間だった父にとって、行きつけの散髪屋さんでの時間は何だったか、その答えが少しわかったような気がした。
 
バーバーを出たとき、少し冷たい風に乗って、散髪後のいい香りがした。
 
また3か月後に贅沢な時間を。