2020年の映画を振りかえってみたりする~その③

今回はシブい2作。

 

🎬「シェイクスピアの庭」84点(B上)

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私生活の記録があまりにも少ないために本当に実在したのかさえ疑われるW.シェイクスピアの晩年を描いた映画。自然光による映像は哀しく美しい。舞台俳優としてのキャリアを積んだケネス・ブラナーをはじめ、所謂シェイクスピア俳優によるシェイクスピア映画です。
シェイクスピアについてのある程度の知識がないとなかなか入り込めない映画かもしれません。映画というのは基本的に普遍的なものを描くものであり、そうじゃないと感情移入が難しい。それをある意味あえて無視した映画といえる。
つまり家庭を顧みず突き進んで成功を収めてきた男が数10年ぶりに家庭に戻り、失われた家族の絆を取り戻していく、というようなストーリーではないと思うのです。人はひとところにとどまらない。失われたものを取り戻すことはできない。
歴史上もっとも優れた舞台作品の作者であっても自らの人生を脚本化することはできないし、家族だって脚本通りに動くはずがない。この映画の「All is True(すべては真実)」という原題はシェイクスピアの戯曲「ヘンリー八世」の原題でもあります。ケネス・ブラナーがこの原題を付けた真意は何なのか。この映画を語るうえで戯曲「ヘンリー八世」の内容を知っておかねばならないかもしれません。宗教問題(ローマ・カトリック教会イングランド国教会との関係性)、世継ぎ問題(多くの王妃を迎えたが男子の世継ぎに恵まれなかった)、側近を次々と入れ替えたこと等、15世紀末から16世紀にかけての治世の中で「王」が知りえなかったさまざま(市井の人々の方が真実を知っていた)が描かれているようです。
数多くの著作の中で人間というものを描いたとされながら自らの人生と家族との繋がりをうまく演出できなったシェイクスピアが「ヘンリー八世」の生涯と重なったとき「All is True」という原題が意味を持つのかもしれません。
亡き息子への思慕(ヘンリー八世もまた男子を切望した)を込めた庭を造ろうとするシェイクスピアの姿は不器用で痛々しくもあり、彼に救いあれと願わずにいられない。

 

🎬「ルース・エドガー」?点

ルース・エドガー - こんな映画は見ちゃいけない!

 

点数つけられませんでした(*_*;。実際海外レヴュー評価はかなり高いようです。

たぶん、この映画を今後見る方は少ないと思うのであらすじを少し。

 

ルース・エドガーというエリトリア生まれのアフリカ系の高校生が主人公。

紅海をはさんでサウジアラビアと対面し、スーダンエチオピアに囲まれた小国エリトリア。政情は安定せず紛争が絶えない中、ゲリラ兵によって殺人マシーンとして育てられていた少年がアメリカ人夫婦の養子として迎えられルースと名付けられます。

養親に愛されて育ち、学校内では他の生徒の模範となるほど品行方正で頭脳明晰、スポーツもできる。誰もが将来はオバマ大統領のようにと期待します。

しかし、ルースの内面に潜んでいるものは誰にも想像のできないものであることが(観客には)次第にわかってきます。

 

白人の養父母はルースを信じ、黒人の教師はルースを疑う。これまでだと黒人は黒人を信じ白人は疑うという図式だと思うのですがそれが逆になっているところが興味深い。

つまり黒でも白でも黄色でも中身が問題なのだと考えれば少しわかりやすいのかも。

しかし…アメリカでの人種問題は日本人の私などには理解の及ばないことだらけなんだと思っています。きっとこの映画は人種差別問題を描くものではなく、ものすごく簡単に言ってしまうと「人間ってわからないよね」という普遍的なテーマなのかもしれませんが、どうもそれだけじゃない気もして。

結局のところよくわからないまま映画館を後にしたのでした。

どんな映画でも全てを理解できるとは毛頭思ってはいませんが、私にはこの映画は難解すぎたということかもしれません。

 

教師役オクタヴィア・スペンサーの存在感、抑えた演技の見事さは言うまでもありません。

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