弦も弓もキレッキレ 辻井さんと晴れオケと

こないだの日曜の夜はNHK三昧。

「鎌倉殿の13人」をいつものように見た後に始まったこの番組。

 

いや~すごかった(^-^;

このレベルになると目が見えるとか見えないとか全く問題じゃないことを今更ながら思い知らされ。

今年2月のコンサートメインプログラムもさることながら、圧巻のアンコール。

ドビュッシー亜麻色の髪の乙女」を弾いた後、スタンディングオベーションに応えて弾きだしたショパンの「練習曲ハ短調作品25第12」。これがまたかなり激しい曲なのですが、その途中であまりの音圧に耐えかねたのかピアノの弦がバーンと切れたのですよ!しかもかなり低音の方のやつ(だと思う)。

演奏中にピアノの弦が切れることってままあることなのかな?僕は初めて見ました。

弦を垂れ下げたまま辻井さんは弾き切りました。またまた割れんばかりの拍手!

ふつうここでカーテンコールして終わるはずが「・・・拍手がすごくて・・・上から降ってくるような感じで・・・本当にすごかったのでついつい、もっと弾きたいと・・・弦が切れてお客さんを驚かせてしまって申し訳ないなという思いもあって・・・」と。

再再度ピアノに向かったときにはお客さんから驚きの声がもれた(^-^;。

そして弾き始めたのはシューマンの「トロイメライ」。

 

美しすぎて目が潤みました。

コロナ禍でなければ「ブラボー!」の声が響いたことでしょう。

 

ステージに立つときには見えようと見えまいと関係ないのだと思いますが、そこに到達するまでにかかる努力の時間はやはり並大抵なことではないのだろうと推察します。

だけどこちらのそんな思いはまったく意味のないこととも思います。

会場の熱に誠心誠意応える辻井さんのホスピタリティをまざまざと感じ、公演チケットが即完売になるのも当然と思いました。

 

あ~、いいもの見たと思ってたら23時20分からBSで始まったこの番組。

 

www.nhk.jp

 

トリトン晴れた海のオーケストラ」略称「晴れオケ」が昨年11月の演奏会で「第九」を実現するまでを追ったドキュメント番組。

指揮者を置かないオーケストラというのは室内楽の世界ではさほど珍しいものではないですが、「第九」となると話は別です。

いろんなオーケストラの首席クラスの演奏者たちが集うというコンセプトでは共通点のある小澤さんのサイトウ・キネンは演奏者のベクトルが一直線に指揮者に向かい、まるで波動砲のような音圧を実現したと思っていますが、「晴れオケ」においては演奏者のベクトルはいわば天上に向かっている感じ。

まずコンサートマスター矢部達哉さんのイメージに対して各演奏者たちが納得できる部分、出来かねる部分が出てくるのはある意味当然のことながら、指揮者の目指す「第九」ではなく、メンバー全員がベートーヴェンが目指した「第九」とは何だったのかを楽譜から模索しつつ(いい意味で)妥協点を見出し、ブレンドされていく過程が実に面白い!

矢部さんがメンバーに語り掛ける言葉で印象深かったのは「みなさん、第九を100回とか200回とか演奏してこられたと思うんですけど、今回の演奏は初めてこの曲を弾くという気持ちになってほしい」というもの。

すごく簡単に言ってしまえば先入観や経験値を排し、楽譜に向き合い、互いの演奏を尊重する、ということなのかと思うのですが、僕も常々合唱の練習の中で何十回何百回と練習してきたとしても今日初めて音にしてハーモニーが生まれた~!という新鮮な歓びを持っていたいと言ったりします。僕らがどんなに回数重ねててもお客さんはたぶん初めて聴く曲だろうし。

 

この時の「第九」の合唱は東京混声合唱団。数回のリハを経て指揮無しの合唱に挑みます。基本的にイン・テンポで進みながらも多少のオケのリタルダンドのあとにtuttiで入る部分がどうもうまくいかない(テンポが戻せない)。試行錯誤の末、リタルダントから一瞬の間にオケがテンポを戻すことに。「第九」の持つエネルギーを最大限に引き出すためにどうすべきか演奏者同士が意見を述べ合いながらベートヴェンの想いを創りあげていく過程はとてもエキサイテンィングで、とても勉強になりました(^-^;。

 

上記の二つはNHKプラスでまだ見れますよ~。

 

ついでにといっては失礼ですが1992年のサイトウ・キネン・フェスティバルでのブラームスの1番をYouTubeでまた見てしまいました。やっぱ音の鳴りがすごい!

待ちきれない「ブラボー!」と万雷のスタンディングオベーション

この時って「天覧演奏」だったのですね。

若き日の故小山大作君がファゴットメンバーとして見れるのが嬉しい。


www.youtube.com