寿司の配達のためオペラ座ガルニエ宮を訪れたラップ好きのフリーター青年アントワーヌ。ふとしたことからオペラの歌真似をした彼は、偶然その場に居あわせた一流オペラ教師マリーに才能を見込まれてスカウトされる。自分とは住む世界が違うと考えながらもマリーと2人で秘密のレッスンを始めたアントワーヌは、次第にオペラに熱中していくが……。
原題は「Tenor」。そのまんまです。
付け足しの「人生はハーモニー」は要らないかな(;'∀')
ひとことで言うと「ロッキー」の音楽版でしょうか。
フランスって最近いろいろ話題になっているように人種差別が潜在的にも顕在的にもある国のようで、格差社会でもあることがよくわかります。
本作でも主人公アントワーヌ(移民系だと思われる)はまぎれもなく低所得者層に属していて、いわゆる上流階級の牙城であるクラシック音楽の世界とは縁遠いところにいる。
しかしその天性の美声によって新たな運命が開けていくのだが、同時にクラシック音楽界とかオペラ界とかの閉塞性があぶりだされているわけで、このテーマは恩田陸氏の名著「蜜蜂と遠雷」とも共通している。
と同時に、音楽の世界は「才能」さえあれば、そしてその「才能」を見出す人がいれば大きく門を開くのだという肯定感は見ていてすがすがしい。
アントワーヌの才能を見出す教師マリーの人物像(彼女の音楽観や価値観や人生観)をもう少し深く描いてほしかったし、幼なじみや家族の描き方も物足りないと思うのだけど、まあ「コーダ」と同様に楽しく観ることができたなあと。
アントワーヌ役のビートボクサーMB14(エムビーフォーティンと読むらしい)は劇中実際にオペラアリアを歌っているわけで、その美声ももちろん見どころ(聴きどころ)です。
余談:MB14で検索するとムハンマド・ベルキルと出てきます。同じ名前で7世紀~8世紀にイスラム教シーア派の第5代イマーム(指導者)がいます。